企画展 水墨画の風

━長谷川 等伯と雪舟━  

フリーキユレイター  藤浦正行

1.日本水墨画の軌跡
 東京・丸の内の出光美術館において 「水墨の風━長谷川等伯と雪舟━」と題する企画屋が開催された。この展覧会は中国で発生した水墨技法の絵画を日本の絵師たちがどのように受け継いできたかをまとめたもので、全体を四章に分け、第一章雪舟を創りあげたもの━ 「破墨山水」への道、第二章等伯誕生━水墨表現の展開、第三章室町水墨の広がり、第四章近世水墨━狩野派そして文人画へ、という構成になっている。


平沙落雁図
牧谿
重要文化財
出光美術館

 表題だけ見ると等伯と雪舟とをメインに据えた展覧会に思え、ちょっとした期待感を抱いて会場に入った。そして第一章の雪舟を創りあげたもの━ 「破墨山水」への道を見た時その淡い期待は見事に裏切られたのである。  「破墨山水」といえば、多くの方が東博所蔵のあの名品を思い浮かべる。筆者もその期待を胸に拝見したのであるが、最初は導入部として玉澗の 「山市晴嵐図」 (重文)と牧谿の 「平沙落雁図」  (重文)でありいずれも出光の持つ名品ではあるが、出光における水墨画展ではおなじみの二点であった。これに続いていたのが、筆者初見の雪舟筆・景徐周麟賛の 「破墨山水図」であり、この作品が先の玉澗の 「山市晴嵐図」と軌を一にするという点を強調したかったらしい。


破墨山水図
雪舟筆・景徐周麟賛
出光美術館

確かに土坡の表現などにいわゆる破墨技法が見られ、絵の特徴としては近似性が認められるものの、このたった二点の作品だけで 「破墨山水」への道程を見てほしいと願う事には無理があるように思える。なぜなら、もう一つの牧谿筆 「平沙落雁図」は薄い墨の手法によって広大な水面と落雁の群れを描いた作品で 「破墨」につながる点は見当たらないからである。さらにいえば、この章の作品群は伝雪舟の 「四季花鳥図屏風」であり、また雪舟に習ったとする関東水墨の雄雪村の 「花鳥図」であった。また南宋期の 「牛車渡渉図」明代 「柳下舟遊図」戴進筆 「真景山水図」王鍔筆 「雪嶺風高図」というように破墨とは近似性も見えないきっちりと描きこまれた緻密な作品群のオンパレードには目を疑ってしまった。ましてや江戸期の雲澤等悦筆 「琴棋書画図屏風」や谷文晃筆 「風雨渡江図」に至っては何をかいわんや、である。


雪嶺風高図
王鍔
出光美術館

 第二章の等伯誕生━水墨表現の展開も同様で、能阿弥筆 「四季花鳥図屏風」  (重文) 牧谿筆  「八々鳥図」毛倫 「牧牛図」山田道安 「八々鳥図」の後に等伯筆 「竹鶴図屏風」があり、そのあとに本章のメインである等伯筆 「松に鴉・柳に自鷺図屏風」が登場するのである。これらの作品群はいずれも水墨画の多様性という名目こそ達成しているものの、さてどのような関連を見いだしたらよいのか迷ってしまう。


牧牛図
毛倫
出光美術館

  
四季柳図屏風
長谷川等伯

ましてやこの間に等伯筆 「四季柳図屏風」という金碧屏風が挟まれ、最後に狩野探幽の 「八々鳥・小禽図屏風」が登場するのである。まさに水墨画の多様性を示そうとしたものとしか思えない構成で、長谷川等伯の存在も蔭に隠れたというべきであろう。
 

 第三章の室町水墨の広がりは、雪舟から等伯への過程を埋めようとした試みであろうが、この中にこそ出光コレクションの水墨画の名品が含まれていた。


        
栗鼠図
呂景玄
出光美術館
       
山水図
伝周文
出光美術館
        
観音図
伝一之
出光美術館

土岐富景 「白鷹図」呂景玄 「栗鼠図」は序の口だが、曽我宗誉筆 「花鳥図」伝周文筆 「待花軒図」同じく伝周文筆 「山水図」相阿弥筆 「廬山観爆図」伝曽我蛇足筆 「山水図」広一之 「観音・梅図」同 「観音図」伝楊補之「梅図」と畳み込むような展開は、日本水墨画の懐の深さを十分に示しているといってよい。この章に展示された作品を中心にして、室町期水墨画の特徴を示す別の展覧会が企画できるのではないかと考えさせられた。


鳥図屏風
伝狩野松栄
出光美術館

 最後に登場した第四章の近世水墨狩野派、そして文人画へという部分は全くの蛇足であると感じられた。狩野松栄筆 「花鳥図屏風」元信印 「花鳥図屏風」はまだ狩野派正系の画技を示すものであるが、岩佐又兵衛筆 「瀟湘八景図巻」狩野尚信 「酔舞・猿曳図屏風」狩野探幽・尚信・安信三兄弟合作の 「山水花鳥人物図巻」岸駒・呉春 「群仙図屏風」さらに浦上玉堂や池大雅、田能村竹田や青木木米に至ってはまさに何を示そうとしたのか頭が混乱してしまう。


山水花鳥人物図巻
狩野探幽・尚信・安信
出光美術館

2.本展の意味を再考する

ここまでこの展覧会の展示作品を見てきておもったことは、また先般行われた 「岩佐又兵衛と源氏物語展」と同様の展開であったという点である。この時も岩佐又兵衛という最近知られるようになってきた絵師と以前からファンの多い源氏物語という大名題を組み合わせて観客を誘い、今回も雪舟と等伯という二人の絵師の名を表題に掲げて観客を誘った。

しかしその内容はといえば、名品の数々はあるものの、一言でいえば出光コレクション中の水墨画の公開を目的とした展覧会だったのである。確かに民間コレクションにとって所蔵品による企画展は大変に難しい。それは一乃至二点の名品を中心として構成された展覧会であっても、その表題の付け方によっては全く違う意味に受け取られかねないからである。本展がまさにその典型であった。中国宋代の名品から日本の室町期の名品までも合わせて展示しながら、その雄大な水墨画の潮流の中に、雪舟と等伯という二人の絵師を特筆すべき存在として取り上げながら、この二人の作品はともにたった二点のみという寂しさであった。この辺が民間コレクションの厳しさかもしれないが、それなりの入館料を徴収して開催した展覧会としては、  「竜頭蛇尾」という結果だったのではないだろうか。今後さらに研鎖してより良い展覧会が開催される事を望みたい 。

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